プロが徹底解説|給湯器の寿命が20年もあるわけない

プロが徹底解説 「給湯器の寿命が20年もあるわけない」

私は普段、給湯器の修理や交換をする仕事をしていますが、一般ユーザーが給湯器の寿命を知らないのは仕方ないことだと思っています。そもそも給湯器なんて身近すぎて目の届かない存在ですし、そういう仕事にでも携わっていない限りは正確な機器寿命・耐用年数を知っている人は少なくても仕方ありません。

問題は現実とは大きく隔たりがあることを勘違いしている場合です。たまになんですが「給湯器って20年持つんじゃないの?」って言ってくるお客さんもいるんですよね。

そこで本記事では「給湯器(家庭用ボイラー)の寿命が20年だと思っている人が多い件」について、なぜそのような勘違いが起こっているのか、そして事実はどうなのかについて書いていきたいと思います。

目次

給湯器の機器寿命、耐用年数は約10年

給湯器の機器寿命、耐用年数は約10年 機器寿命の定義や考え方

何をもって機器寿命、耐用年数と捉えるか

給湯器の耐用年数・寿命は約7年~10年です。これは私たちプロの修理人がお客さんに案内しているセオリー通りの答えであるのと同時に、メーカーから「そうやって答えなさい」と指導されている内容でもあります。

結論から言うと給湯器には「設計標準使用期間」というものが設けられています。これは「標準的な使用条件の下で使用した場合に安全上支障なく使用することができる標準的な期間として、設計上設定された期間」のことです。

こたろー

給湯器は使用する家族の人数やライフスタイル、更には住んでいる地域の気候などによっても使用量が変わるため、全てにおいて平均値を出し、それでも安全に使用できるとした数値を「設計標準使用期間」として公表しています。

設計上の標準使用期間(食器洗い乾燥機の場合は、設計上の標準の使用期間)は10年(業務用ガス給湯器は3年)と算定しております。

Rinnai – 設計上の標準使用期間について

ここに給湯器メーカーのリンナイが公表している標準使用期間についての一文を引用しておきます。ノーリツやパロマ、長府、コロナ等の他メーカーもまた一緒です。

この標準使用期間の決め方や算定方法にも細かいルールがあるのですが、別記事に詳しくまとめてあるのでリンクを貼っておきます。気になる方はぜひ参考にしてもらえると嬉しいです。

「部品交換したら使える」という状況は既に機器寿命

「部品交換したら使える」という状況 これは既に機器寿命を迎えている

無故障で一度も修理せずに使用開始から10年を迎えることができる給湯器は、一昔前よりも明らかに少なくなってきました。

機器寿命という言葉をどういう意味で使うのかによってもまた意味が変わってくるのですが、私たち修理のプロからすると給湯器の寿命は「修理や部品交換等のメンテナンスが必要になる時期」を意味しています。例えは悪いですが、年を取った人間が「耳が聞こえにくくなってきた」というときに、もし新しい耳と交換できたらどうでしょう?

耳を交換することで、しっかり耳が聞こえるようになりました。じゃあ「この先、まだ10年や20年生きられる」と言えるでしょうか。そういう可能性も当然ありますが、多くの場合は「今度は耳以外の部分が悪くなってしまう」ということが予想されるでしょう。

給湯器の場合は人間とは異なり、部品が存在する限りはいつまでも修理して使うということが理論上は可能です。しかし、何度も修理をして、新品に交換できるだけの修理費用を投資して使用しているという場合、これで機器寿命を迎えていないっていうのは無理があるのでは?

「給湯器の寿命=修理せずに使用できる時間」なのでは?

給湯器ユーザーにとって最初の故障が来ることが多い時期が7年~10年であり、それを直したところで今度は別の部分が悪くなる可能性があります。メーカーでは、この時期を給湯器の機器寿命、耐用年数としているんです。

給湯器は人間とは違うので「修理すればまだ使えるけど、このあと次々壊れてしまう可能性を考えたらいっそ新しいものに交換した方がいい」という考えが出てきます。そのラインが「使用開始から約7年~10年に多い」という話です。

一昔前であれば給湯機能だけのガス給湯器なら15年選手を多く見たのに対し、最近の風呂機能付きの給湯器は10年以上、何事もなく使用できることの方が珍しくなってきました。

こたろー

ガス給湯器や貯湯式の石油給湯器はまだマシで、直圧式の石油給湯器は平均的に見ても機器寿命が短いような気がします。

給湯器の寿命は20年という勘違いについて

給湯器の寿命は20年という勘違いについて なぜこのような勘違いが起きるのか

給湯器の寿命は使用環境によって大きく変わる

私は現在アパートで独り暮らしをしています。ここには1995年製のガス給湯器が現役で取り付けられています。実際にまだバリバリ動けているわけですが、2021年現在この給湯器の寿命は26年以上になるのでしょうか?

分かりやすく、かなり極端な話をします。お家を建ててすぐ間もなく海外への転勤が決まり、家をそのままにして海外へ飛び立ち、20年後に日本に戻ってきてその家に住み始めたとしたら、その時点で給湯器の寿命は20年+この先使用できる期間なのでしょうか?

よくアパートやマンションなんかで「ここの給湯器は20年以上使えた」とか普通に言う人がいるんですが、そういう場合は毎日使用しているようなご家庭と比べて使用時間が少ないことが多いです。賃貸物件であれば未入居の期間もあるでしょうし…。そういう特例を含めて、給湯器の寿命は20年っていうのはナンセンスじゃないかと思うんです。

一昔前の情報を今も同じだと思っている

一昔前の情報がアップデートされていないというケースも多いように思います。世界では未だに日本人が「ちょんまげ&刀」だと思っている人も少なくないって言いますし…(←それは違う)。

実際に一昔前のシンプルな給湯器はかなり長持ちしました。今でもバランス釜タイプ(浴室内に設置されていて、お風呂の追い炊きとシャワー&カランが使えるタイプ)は、20年くらい使えるものがあってもそこまで珍しいことではありません。

ただし温度調整もアナログ感が満載のツマミ調整で、今現在の給湯器のように「42℃ピッタリのお湯」を出すのは難しいような機械です。製品は便利になればなるほど複雑化していきます。複雑化していくということは…後は言わなくてもわかりますよね?

こたろー

「任天堂switchのジョイコンが壊れやすいのに対し、昔のファミコンって丈夫だったよね」みたいな話です。

技術が進歩しているから物持ちも良くなるという勘違い

技術が進歩すると物持ちも良くなる!? パソコンも?車も?スマホも?

前項では「製品が便利になればなるほど仕組みは複雑化し、複雑化するということは壊れやすくなる」と書きました。そういわれると「言われれば確かに…」っていう人も多いと思います。でも中には「昔より技術が進歩してるんだから、耐久性も上がってるんじゃないの?」って思う人も出てくるのではないでしょうか。これに関してはそう言いたくなるような気持ちも分からなくはないんです。

ただ、よく考えてみてください。今、ご自身の周りにある電化製品を見て10年前より耐用年数・機器寿命が延びてるものってどれくらいありますか?例えばパソコン。一般家庭に普及し始めたのは20年くらい前だと思います。

ちょっとパソコンの寿命が何年なのか分からないのでアレなんですが、ここでは仮に5年くらいとしましょう。耐用年数がのびた結果が5年なんだとしたら「じゃあ当時は2~3年で壊れてたの?」って話になるわけです。…そんなことはありませんよね?

私が使用しているスマホは、2年も使えば明らかにバッテリーの持ちが悪くなってます。でもそれは解像度の向上などによって「バッテリー自身の性能も上がってるけど、それ以上にバッテリーの消費量も上がるくらい性能がアップしている」から、寿命の伸びが実感できてないだけだと思っています。

こたろー

このように機器寿命が延びていたとしても、その機器寿命を消費するスピードも速くなっていることが多いので、技術が進歩したからといってそれがそのまま寿命に繋がっているケースはほとんどありません。

実際に「20年使えた」という情報がネット上にゴロゴロ存在する

実際に「20年使えた」という情報は多い それは決して嘘ではないが正しくもない

20年使えたという情報は交換時期を指すことが多い

例えば「給湯器 寿命 20年」と入れてGoogleなりYahooなりで検索してみると、マンション事情に精通している方の運営しているブログがトップに出てきます(2021年11月現在、当ブログが表示されました万歳←違う)。

その方は実際に住民に対してアンケートを取ったのか、マンションの中に入っている世帯別で「どれだけ給湯器が使えたか」をデータにしてくれています。私も実際に読ませてもらいましたが、非常に素晴らしい記事でした。

ただ、私のように毎日のように給湯器の修理に出歩いている人間からすると、どうしても15年~20年が給湯器の機器寿命だとは思えません。「じゃあそのブログを運営している人が嘘を言ってるのか?」と聞かれるかもしれませんが、そういうわけでもありません。ここには「給湯器の寿命=給湯器を交換した時期」という大前提があります。

「修理できない=機器寿命」なら解釈が大きく変わってくる

ちょっと一休さんみたいな話になってしまうんですが、もし仮に「給湯器本体を交換した時期を寿命とするのであれば、修理した回数はカウントされていない」ということになります。極端な言い方をすれば、ここでいう給湯器の寿命を20年にでも30年にでもしたいのであれば、中身を全部交換してやれば部品が取れる限り寿命は迎えないという言い方ができるでしょう。

ですから、この場合の寿命というのは「どれだけ使用できるかの目安ではなく、どのくらいで部品が取れなくなるか」を示している指標にしか過ぎないと思うんですよね。たぶん20年で新しい給湯器に交換したって人は「修理したかったけど部品が取れないから買い替えた」ってだけの話だと思います。

もし修理費用に10万円も20万円もかけてでも「給湯器が動く限りは寿命じゃない」というなら給湯器の寿命は「部品が取れる限りは迎えない」という結論になりますが、そんなことはないですよね。多くの人は「給湯器が壊れ始めてしまう時期」「修理するよりも買い替えた方がお得になる時期」を給湯器の寿命と捉えているのではないでしょうか。そして、その年数は7年から10年です。

給湯器の寿命を知りたければ保険内容を確認すればいい

上記画像はノーリツ製の給湯器を購入した時に加入できる給湯器の保険(製品保証延長)の内容となります。赤枠と青枠は、ここでは気にしないでください。保険の内容を簡単に説明すると「契約期間内に給湯器が故障した場合、これの修理にかかる一切の費用が免除される」というものです。

つまりこれを提案するメーカーとしては「給湯器が壊れる可能性が高くなるほど、そのリスクに見合った保険料をユーザーから取らなければビジネスとして成立しない」ということになります。この保険の内容を見ると「どんなに保証しても10年まで」とか「7年と10年の間に保険料が跳ね上がっている」という事実があるのが分かりますか?

なぜ10年までしか保証していないかというと、そこで給湯器が寿命を迎えているという見解があるからです。そして、7年と10年の間に保険料が跳ね上がっている理由は「この時期に故障が多いというのが分かり切っているから」です。

保険っていうのは実に正直で、利益が取れない可能性の高い内容については保証されません。もし本当に給湯器の寿命が20年もあるなら給湯器メーカーはさておき、民間の会社で給湯器を20年間保証する保険屋が出てきてもいいと思いませんか?

それが出てこないのは保険屋としてのビジネスが成立しないからです。例えは不謹慎ですが、人間の生命保険で200歳までを保証していないという理由に近いでしょう。つまり「給湯器の寿命を20年というのには無理がある」ということになります。

給湯器の価格の相場を知っていますか?

例えばあなたが100万円で車を買ったとします。これが大して乗っていないのに壊れてしまったら腹が立ちますよね?ではこれが10万円で買った車だったらどうですか?腹が立つことには変わりないにしろ、前者のパターンと比べると心のどこかには「仕方ない」という考えがあるのではないでしょうか。

この例とは若干意味が異なってきますが、給湯器が40万円もする場合だと「こんなに高いのに10年で壊れちゃうの!?」と思う気持ちも少しは理解できます。実際に給湯器の価格帯を見てみるとメーカー希望小売価格は40万円前後のものが多いですからね。

しかし給湯器は定価こそ非常に高いイメージがありますが販売価格はそこまで高くならないことが多く、安い業者を探せばいくらでも出てきます。現に格安を謳っているネット業者の価格相場は約80%OFFです。

上記はネット上で給湯器の交換作業をしている「いえすと 給湯器交換なら満足度No1の実績 年中無休で即日にも対応」での販売価格です。ノーリツとリンナイのガス給湯器が最大82%OFFとなっています。

もし給湯器の定価が30万円だとすれば54000円、定価が40万円だとすれば72000円です。業者によってはこれくらいの価格で販売しているもので、それも毎日使用する物に対して「20年は頑張れ!」っていうのは酷だと思いませんか?

個人的に給湯器は毎日使用しているものなので、30万円でも10年で壊れたからと言って高い買い物だとは全く思いませんが、安い業者なら10万円以下で販売(取付費用を入れたら10万円は超えるけど)しているようなものです。

仮に10万円として10年使ったら1年あたり1万円です。1年は365日ですから、1日あたり約30円ずつ貯めていれば10年で買い替えられるようなものだっていうことは覚えておいてください。そういう意味でも給湯器の寿命を20年って言ってしまうのは無理があると言えるでしょう。

まとめ

私たち修理のプロが言うボイラーの寿命とは「機器本体の修理が必要になる時期」を示す言葉であり、それは約7年~10年である
ネット上の「給湯器を20年使った」という言葉のすべてが嘘とは言わないが、言葉のマジックを多分に含んでいると思われる

今回言いたかったのは「給湯器の寿命が20年っていう人は少なくないけど、1回も修理をせずに毎日使用しているような家庭で使われている給湯器が、そんなに長持ちするケースは極めて異例なことですよ」ってことです。

ご近所さんで「給湯器が1年で壊れた」ってお家と「給湯器が20年使えた」ってお家があったら、平均取って「機器寿命は10年か…」とはならないでしょう。一般ユーザーなら「1年で壊れる=運が悪い、20年使える=こっちが普通」と捉える人が多いと思います。

給湯器の機器寿命というワードをどういう意味で考えるかにもよりますが「20年くらいが寿命だ」という場合は、実際には「修理に修理を重ねて辿り着いた境地」くらいに思っていた方が無難だと思います。

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この記事を書いた人

給湯器や暖房機、ガスコンロ、IH、システムバス、システムキッチンなどなど、住宅設備を修理したり取付交換する仕事をしています。

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今まさに石油給湯器を買い替えようと2社と交渉中です。大変参考になりました。2-3日中に決まると思いますが後は業者との交渉結果になります。コロナ石油給湯器とノーリツ給湯器が対象ですが気持ちとしては現在使っていた機種がノーリツのもので機能に満足していましたのでノーリツに
    気持ちはしようかと迷っているところです。

    • 中村さん、コメントありがとうございます。
      石油給湯器についてもノーリツ、コロナ、それから長府製作所などは、それぞれにセールスポイントがあって、どこのメーカーが突出しているとかそういうことはありません。
      施工業者と相談してみて、気持ちよく任せられそうな方にお願いするというのも1つだと思います。
      もし使用していて疑問に思ったこと等あれば、また当ブログに訪問していただけたら幸いです。

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