給湯器の修理をしてお客さんのお家を回っていると、色んな文句やクレームを言われることがあります。買って間もないのに壊れてしまった場合は不満に思うのも当たり前だと思うのですが、中には「親戚の家のボイラー(給湯器)は20年使用できた」というようなクレームを言われることも。
「親戚の家のボイラーは20年も使えたのに、うちのボイラーは10年で壊れるなんておかしいじゃないか!」と純粋に思っての文句なのかもしれませんし、ちょっと話を盛っているのかもしれませんし、はたまた修理業者を困らせようと思って言っているだけかもわかりません。
ただ、この手のクレームは結構言われ慣れていて、私たちにとっては「いくらでも論破できるけど、それをしてしまうと火に油を注ぐ結果になるので平謝りしている」というのが現状です。今回はその辺の話も含め「よその給湯器が長く使えて、ウチがそれより早く壊れてしまうなんて納得いかない」という言い分があまり良くない理由について説明します。
給湯器の機器寿命寿命、耐用年数は?
給湯器の機器寿命、耐用年数は7年~10年と言われています。一昔前までは10年以上持つものもありましたが、最近は10年を超えて故障していない機器はかなり少なくなってきました。そして給湯器の寿命が7年~10年という言い方をすると、多くの人は10年の方だけ覚えているので、給湯器の寿命は10年という噂が広まっているのではないかと思います。
ただし多くの人はこの段階で気付くと思うのですが、基本的には給湯器の寿命なんて年数で区切れるものじゃないんです。毎日1時間使うご家庭と毎日2時間使うご家庭とで、同じ年数使えるなんて普通に考えにくいじゃないですか?
車の寿命を聞かれて年数ではなく走行距離で答えるのが一般的であるのに対し、給湯器の寿命はなんで年数で答えたがるんだろうと不思議で仕方ありません。個人的には給湯器の寿命を聞かれたら年数ではなくて燃焼時間や点火回数で答えるべきだと思っています。
ユーザーが燃焼時間や点火回数を知る術は公表されていませんし、車のメーターのような燃焼時間を示す物もないので、ピンとこないから大雑把な年数で答えているのでしょう。
クレームにも上質なものとそうでないものがある
文句を言いたいだけならそのままでOK
私は実際に色んな家庭を回って、壊れた給湯器やガスコンロなんかを修理しています。今まで普通に使えていたものが急に使えなくなってしまったという人の所に行くわけですから、多少なり不満を持っている人と接しなければなりません。
だからクレームや文句の一つも言いたくなる気持ちは理解できるので、文句を言って留飲を下げたいだけならそれでOKです。別に「ここでクレームを言うことで修理料金が安くなればいいな」というような思惑がないのであれば、思うように言葉をぶつけてください。
「よそと比較して…」のクレームには謝る以外の方法がない
もしクレームを言うことで「修理料金を安くしたい」とか「何かしらの形で誠意を見せてほしい」というような場合には、それなりのやり方があります。少なくとも他と比較するだけのクレームで、こちらが折れることはまずありません。
幼少の頃に「けんちゃんは買ってもらってた」と親に言って「よそはよそ、うちはうち」と言われた経験ってありませんか?少し例えが悪いですが、仮にあなたの子供が同じクラスの子(けんちゃん)と同じ塾に通っていたとして、もしけんちゃんの方がずっと成績が良かったとしたら、塾の先生に対して「知り合いの子は100点なのに、なんでウチの子は50点なんですか?」って言いますか?
これまた例えが悪いですが、仮にあなたのお父さんやお爺ちゃんが病気で入院していたとして、もし同じ病室にいる10歳年上のお爺ちゃんより先に亡くなってしまったとしたら、お医者さんに対して「同じ病室のお爺ちゃんは…(略)」って言いますか?
まぁ「言う」って言われたら、もうすみませんとしか言えませんし「死ぬ間際の人は隔離されるから同じ病室ってのはおかしい」と指摘されても、もうすみませんとしか言えませんが…。
給湯器の機器寿命を決める要素
給湯器の機器寿命に関わる要素TOP3
- 燃焼時間
- 着火回数
- 通電時間(使用年数)
給湯器の機器寿命に大きく関わってくる要素は、主に上記の3点です。特に燃焼時間は大きく起因する要素で、1日に1時間使用した場合と1日に2時間使用した場合とでは理論的に使用できる年数に倍の差がでます。
「じゃあこまめに消せばいいの?」と言われることが多いのですが、実はそれもあまり良くなくて…。着火回数も重要とされており、トータルの燃焼時間は少なくても火のついた回数が多ければ、それだけバーナーに負担が掛かっているという判断になります。
あとは使用年数も「水圧がかかっていた時間」という考え方をすれば、それなりに経年劣化を引き起こす原因として考えられるでしょう。ただし一般的に耐用年数と燃焼時間や着火回数は比例する傾向にあるので、年数が経った給湯器ほど壊れやすいという説明がされています。
その他の要素
- 水質
- 設置環境
- ユーザーの使い方
お住まいの地域の水質にも給湯器の機器寿命は左右されます。地下水の場合は特に顕著で、総じて給湯器には良くないことが多く、地下水の場合は保証も適用されないことが多いです。
それから設置環境に起因することも多いです。海辺のお家で屋外に設置されている給湯器の場合は塩害が考えられますし、風が強い所も燃焼状態に多少なりとも影響があると思います。あとは単純な部分で「寒い地域ほどお湯を作るのにパワーを要する」ので、東北地方と九州地方を比較してもまた変わってくると言えるでしょう。
そしてユーザーの使い方も重要です。機器寿命というよりは「正しい使い方をしていれば防げた故障を無くす」という意味で非常に重要なので、普段のメンテナンスを怠って故障に繋がってしまうことは避けるようにしてください。
使用上に問題があるケースは「煙突が潰れたのに気付かないまま使用した」とか「お風呂の配管汚れ、フィルター汚れによる二次被害」などが挙げられます。
給湯器本体の当たり外れ
修理業者の立場として絶対に言ってはいけない要素なのですが、機械にはどうしても「当たり外れ」があります。ただしこれはお客さん相手に言うことは絶対に許されない言葉なので、これまでに挙げた要素の中からお客さんを納得させる材料を用意するわけです。
それらが全く用意できないような状況のために保証期間が用意されています。給湯器には本体の保証が1年(BL品なら2年)の他に、それぞれの部品に対して保証期間が設けられていて、例えば「熱交換器からの水漏れは5年保証」や「電装基盤の故障は5年保証」等が代表的なものです。
私たちがどんな材料を用意しても「当たり外れ」という言葉を出さなきゃいけないような状況を回避するために、メーカーが先回りして用意したのが保証期間となっています。
確かに給湯器が1年と1ヶ月で故障してしまった場合は気の毒に感じることが多いですし、できることなら何とかしてあげたい気持ちもありますが、私たちのような実際に現場に足を運ぶ人間にそのような権限は与えられていません。
もしクレームで修理料金を何とかしたい場合
割とクレームとしてメーカーが折れやすいのは上記のようなものです。基本的には「消費者センターに相談する」という言葉が武器として成立するかどうかがボーダーラインのような気がします。ここで「どうぞ」と言われてしまうようなクレーム内容であれば、いくら言ったところでストレス解消以外の何物でもないです。
もしクレームで修理料金を安くしようとか、あるいは踏み倒せないかを考えているなら「親戚の家のボイラー(給湯器)は20年使用できた」という言葉は適切ではありません。これは言われ慣れているので、表向きは申し訳なさそうな顔をしながらも心の中では「また始まった…」くらいに思われてることが多いような気がします。
そもそもなぜ給湯器が故障したのか、納得できない理不尽な事情がある前提にはなりますが、それを修理業者の上の立場であるメーカーの営業担当者に直接クレームとして言うのがいいです。
給湯器が明らかに早く故障してしまった場合
給湯器には1年ないし2年の保証があるわけですが、毎日使う物だからこその短期保証となっています。だからこそ耐用年数が7年~10年なわけで、これも絶対的な期間ではなく、まして必ず使えて然るべき年数でもありません。
5年で壊れてしまった場合、確かに故障する時期としては早いですが、この程度で優遇するほどメーカーも立場は弱くないので、できれば2年以内に故障したというような武器が欲しいところです。ただしこの場合も、使用量が少ないという前提が重要になってきます。
取り付けてから2年以内に壊れた場合でも、1日に十数時間使っているような環境では故障してもおかしくないため、一般的な使用量にも関わらず異常に早く壊れてしまったという事実が重要です。
早期の故障で修理対応が気に入らない場合
私自身は「無料で直してくれるなら別にいい」という考えですが、新品の給湯器が異常に早く壊れてしまった場合、それが保証期間内だったら「修理じゃなくて新品の別の機械を取り付けてほしい」と言われることがあります。
これは消費者庁をチラつかせたり、施工業者を巻き込んだりしてクレームを言えば成功することが少なくありません。ただし最終的にはメーカーの営業担当者の判断になりますし、施工業者が大手で味方になってくれる場合でないと厳しいことが多いです。
サービスマンの失言が気に入らない場合
基本的にメーカーサービスの人間は、割と色々なクレーマーを見てきて理論武装していることが多く、あまり失言の類はしないのですが…。新入社員の失言やミスを皮切りに、そこからクレーム展開するのは意外と有効だったりします。
特に当たりはずれの話は有効で、担当サービスマンから「運が悪かった」とか「はずれを引いた」みたいなことを引き出せれば、その後のクレーム展開で優位に立てることが少なくありません。
この場合は担当サービスマンの上司、あるいはメーカーの営業担当者を引っ張りだして文句を言うのが有効です。「おたくのサービスが来て故障内容を説明してもらったんだけど、壊れた原因が『運が悪かった』なんて言われたら、じゃあ私はどうすれば良かったわけ!?」と。
これは修理担当者だけでなく、メーカーサービスの会社からメーカーの営業担当者まで相当困らせることができるでしょう。ただし言った・言わないの水掛け論にならないよう、録音しているなどの証拠がないと難しいかもしれません。
知り合いと比較したクレーム まとめ
知り合いの家の給湯器が20年使えたからと言って、すべてのボイラーが20年使えるわけではない。
文句を言いたいだけならOKだが、修理費用をどうにかしたいという場合はやり方が悪い
まとめは当たり前の感じになっていますが、給湯器における設置状況・使用環境などは千差万別で、プラスに極端な例もあればマイナスに極端な例もあります。
「親戚の家は20年も~」というのはユーザー自身にとって極端にプラスな例を出しているだけであって、ユーザー自身が知らないだけで別の親戚はもっと短い使用期間で壊れてるかもしれないことを覚えておいてください。
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