私は某メーカーの給湯器を修理・交換する仕事をしています。当然、修理をする前に故障内容の説明と修理金額の説明をするのですが、その金額によっては給湯器の交換を検討するというお客さんも少なくありません。
そして賢いお客さんは私から買い替えの見積もりを貰っておいて、修理を一旦保留にします。そして色んな業者に買い替えた場合の見積もりを貰っているのです。
このような行動を取られてしまうと、私としてはもう給湯器交換の話が自分に来ることはないと思っているのですが、基本的にメーカーサービス(メーカー専属の修理業者)が出す給湯器交換見積もりの金額は高い傾向にあります。それはなぜだと思いますか?
今回はメーカーサービスの買替見積もりが高い理由についての裏話です。
給湯器交換・給湯器買替見積もりの内容
給湯器交換費用トータル金額=本体価格+取付工賃+必要部材費
給湯器交換費用のトータル金額は「給湯器の本体価格と取り付けてくれる人の作業料、それから給湯器本体以外に必要な部材(配管や煙突、燃料通路部など)の費用を加えたもの」です。
施工業者によって交換見積もりに差が出るのは、これらの基準が施工業者によって大きく異なるからで、取付工賃を5万円取るという業者もあれば「ウチは4万円でやりますよ」という業者もいます。
1番大きい部分は本体価格からいくら値引けるかという部分です。力を持っている業者であればあるほどメーカーから給湯器本体を安く購入しているので、大幅値引きが可能という仕組みになっています。
メーカーとメーカーサービスは違う会社
前項では、力を持っている業者ほど安い金額で仕入れることができるので、その分の大幅値引きが可能になると書きました。すると「じゃあメーカーが1番安いんじゃないの?」って思う人もいると思います。
間に余計な業者が入らない分、メーカーが1番安く給湯器交換を提供できるような気もしますよね。これは半分正解で半分不正解なんです。
そもそもメーカーとメーカーサービスは違う会社で、悪い言い方をするとメーカーサービスというのは「メーカーに使われている下請け会社みたいなもの」です。リンナイの給湯器を修理してくれる業者の人はリンナイの社員ではありません。リンナイと契約して、サービス業務を委託されている会社の社員です。
そしてメーカーとしては「メーカーサービスは修理だけしてて欲しい」という見解を持っています。給湯器交換に関しては、有力な水道業者やガス業者に安く提供してwin-winの関係になろうという考えだからです。
もしこれでメーカーがメーカーサービスに安く本体を売ったら、他の業者は不満を持つことになるでしょう。そして「別のメーカーを使うことにする」と言いだしかねない状況になってしまうというわけです。
メーカーとしてはこれは避けたいので、メーカーサービス(修理業者)には「給湯器を売るなとは言わないけど、なるべく目立たないようにやってね」というスタンスでいます。
できれば給湯器を売らないで欲しいと考えている相手に対し、メーカーが安く給湯器を提供してくれるはずがありません。そのためメーカーサービスは周りの業者よりも高い金額でしかボイラーを仕入れることができないというわけです。
給湯器本体の仕入れが安い方が、当然安い金額で提供できる
弊社に入ってくる給湯器の本体価格は社外秘のため明かせませんが、販売金額は最低でも65%以上にするように言われています。これは定価が40万円の給湯器であれば26万円です。言い方を変えれば「値引きは35%まで」という表現もできます。これは同業種の中では相当高い部類です。
ここに作業料と部材費が乗っかるので、状況にもよりますが定価が40万円の給湯器なら大体35万円前後になることが多いのではないかと思います。ただ、これはあくまで最大限頑張った場合の話で、私は基本的に68%~70%で出すことが多いので、もっと高い金額で提示しています。
そして地元の業者に見積もりを取ってもらえばすぐにわかると思いますが、多くの施工業者はこれよりもずっと安いはずです。それは当社よりも安く本体を仕入れることができるので、その分値引きが可能になっているからなんです。
メーカーサービスには金額を安くした場合の弊害もある
もし弊社が自社の利益を度外視して安い給湯器交換見積もりを出したとしても、それがもし他の業者にバレてしまった場合、その業者がメーカーにチクったら厄介なことになります。
恐らく無いとは思いますが、もし弊社がメーカーにとって都合の悪い行動ばかりをとっていると、メーカーから「別のサービス会社と契約する」と言われかねないんですよね。そうなると弊社にとって死活問題となります。
そういう背景もあって「人の畑は荒らすな」と言われているのですが、メーカーサービスとしては「他の施工業者を敵に回してまでも、給湯器を売ろうという考えは毛頭ない」ので、価格競争には基本的には参加しません。
仮に見積もりを出して売りにかかったのが他の業者にバレたとしても、その金額が高ければ他の業者は「ウチならもっと安くやれますよ」って良い顔できるじゃないですか?弊社は他業者に対して忖度をしなければならないので、メーカーサービスは基本的に高い金額提示となることが多いのです。
全国に点在しているメーカーサービスの全てがそうだとは言いませんが、当たらずとも遠からず的な部分があることは間違いありません。
給湯器交換の費用で文句を言われたケースも
弊社の他に別の業者から見積もりを取ったお客さんの中には「おたくの会社から有り得ないくらい高い金額を吹っ掛けられた!」というクレームの電話をしてきたお客さんもいました。
私がクレームを言われたケースでは、私の出した見積もりが34万円で他の業者だと28万円で取付できたというパターンです。「同じ給湯器の交換で、なんでこんなに金額が違うんだ!詐欺だ!」と怒られたことがあります。
ちなみにその現場では排気筒をそのまま再利用してたので、もしちゃんと排気筒を交換していればあと3万円は上乗せされていたはずです。なので正確には3万円程度の金額差になるんですけど、まぁそれでも高いことに変わりはないので何も言えませんでした。
このようにわざわざ電話してまで文句を言ってくるお客さんは少ないのですが、弊社を含めて複数の業者から見積もりを取った人であれば、みんな似たような思いはしたんじゃないかと思います。
これに関して私の言い分としては「野菜なんかでも別のスーパーなら安いとかは珍しいことでも何でもないので、金額的な相場を知りたいのであれば複数社から見積もりを取ればいい」というだけの話です。
弊社は弊社で可能な限りの値引きをしていますし、お客さんから頼まれなければ見積もりも出していません。いずれにしても給湯器の交換はそんなに機会のないことなので、縁も含めて色んな業者を比較してみることをおすすめします。
金額的に高くてもメーカーサービスで給湯器を買うお客さんとは?
ちなみに弊社では年間500台以上の給湯器を販売していますが、なぜ金額的に高い私たちから購入するお客さんがいるかと言いますと…。恐らく多くのお客さんは「見積もりを貰っても他社と比較するのではなく、家族と相談するだけ」なのではないかと思います。
私は見積もりに機種本体の型番もしっかりと書いて見積もりを置いていきますが、給湯器が壊れてしまって一刻も早くお湯を使いたいお客さんは「他の業者だといくらなのかを調べない」という人も多いんじゃないかと思うんですよね。たぶん複数社から見積もりを貰ったお客さんのほとんどは、別の業者に流れているような気がします。
あとは稀に「しっかりと修理できる技術を持った人に取り付けて欲しい」ということで、金額的に高いのを知っていながら依頼してくれるお客さんもいます。
多くの施工業者は「交換はできるけど修理はできない」というスタンスですし、今後何か困ったことがあっても基本的にはメーカーに丸投げするはずなので、最後まで面倒を見てもらいたいという人はメーカーサービスにお願いするということが多いです。
私たちも人間ですから、やはり自分たちから給湯器を購入してくれたお客さんには恩を強く感じるので、高い料金を頂いた分「今後のメンテナンスで優遇してあげよう」という気持ちは起きます。
ただ、私ならいくらアフターサービスで面倒を見てくれると言っても、初期費用に5万円も差があるなら他の業者に依頼しますけど。
まとめ
メーカーサービスが安く見積もりを出してしまうと、困る業者が出てくる
困った業者の矛先がメーカーに向かってしまうと、メーカーが困る
メーカーが困ると、そのしわ寄せはメーカーサービスに戻ってくる
メーカーサービスは他業者を忖度し、安く見積もらない
給湯器を修理している人間が給湯器を安く販売しちゃったら、他の業者の出る幕がなくなっちゃうんです。他の業者からしたら「俺たちは修理できないんだから給湯器交換の話はこっちに回せ」という考えなんだと思います。
修理を何件もするよりも給湯器を1台売った方が売り上げがあるので、仕事の内容としては給湯器交換の方がずっと美味しいんですけどね。あと内容にもよりますが、高額になるような修理をするよりも本体を交換する方が作業的に楽です。
だからと言って本気で売りにかかっちゃうと巡り巡って痛い目に遭う可能性が出てくるので、基本的には限界まで値引くということはしません。仮にしたとしても、他の業者には価格競争では敵わないように思います。
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